株式会社ALL-A

【し~なチャン便り 第41話】10月14日 優しさと勇気~滝平さんの「きりえ」

皆さん、きっと目にしたことがあるはずです。「きりえ」作家として知られる滝平(たきだいら)二郎さん(1921~ 2009年)の作品。

「物語と人間が好きだ」と語っていたという滝平さん。その言葉が示すように、黒い和紙を切り抜いた力強くシャープな線で描かれた人物像は、今も私たちを魅了し続けます。

児童作家・斎藤隆介さん(1917~1985年)とのコンビでつくり上げた絵本「モチモチ山」(1971年刊行)。小学校国語教科書に採用された「じぃじと少年豆太」の物語は何度読み返しても新しい発見がありますよね。

腹痛で倒れた祖父のため、幼く臆病な孫・豆太が「怖い夜道」へ一人で駆け出す。ふもとのお医者さんを連れてくるために。まるで「怪物」のように立ち塞がる「モチモチの木」の大きな黒い影。豆太は勇気を振り絞ってひた走る…あぁ、泣けるなあ、豆太。がんばれっ、大好きなじぃじのためだ。

つい、興奮してしまいました…大好きな絵本なので。

今年は滝平さんの生誕100年。これを記念し、過去最大規模の回顧展「生誕100年滝平二郎展~ものがたりを描いた画家」が、県立近代美術館(横手市)で開かれています(11月14日まで)。特別展では、画業初期の木版画のほか、絵本の原画、「きりえ」、下絵などを含め、300点以上が展示され、滝平さんの画風や技法の変化を感じることができます。

今回のし~なチャンのゲストは、県立近代美術館学芸員、特別展担当の鈴木京さんです。えっ、鈴木京…さん?

「私の好きな女優、鈴木京香さんと一字違いですね」という質問に、「はい、”香りのない”鈴木京ですが…」と笑顔で答えてくれました。鈴木さんがジャケットの下に着ていたのは、「モチモチ山」の「じぃじと豆太」のデザインTシャツ~黒字に緑色がカッコいいです。よくお似合いです。「香りがない」なんてとんでもない!!

「『モチモチの木』はこの物語の特徴的な存在です。『誰か』のために、『不安や恐怖』を乗り越えて困難に立ち向かっていく。主人公・豆太の心の成長や勇気を表現するために、重要な役割を果たしていると思います」(鈴木さん)

滝平さんは斎藤隆介さんとのコンビで、この「モチモチの木」(1971年)をはじめ、「八郎」(1967年)、「花さき山」(1969年)などの名作を生みだしてきました。実は斎藤さん、滝平さんともに秋田にゆかりのある方なんです。

斎藤さんは空襲で東京の自宅を焼かれ、1945年7月に本県へ疎開。秋田魁新報記者(私の先輩ですね…)、わらび座文芸演出部客員などを務める傍ら創作活動を始めました。

一方、1951年の花岡事件を題材にした連作版画集「花岡ものがたり」の制作のため、滝平さんも横手市に滞在。ここで2人は「運命的な出会い」をします。以来2人は秋田の風土を反映し、方言を取り入れた創作民話を盛り込んだ絵本を作り続けていくんです。

斎藤さんは滝平さんと出会う前に、童話「八郎」を発表しています。

「名コンビの最初のスタートは絵本『八郎』。大男の八郎が、村を守るために高波を防ごうと、身をていして荒海に立ち向かうというお話です。これも優しさと勇気が『モチモチ山』と共通のテーマになっています。滝平、斎藤両氏とも戦争を経験した世代、2人にとって大きなテーマだったのでは」(鈴木さん)

МCの椎名恵さんは、滝平さんが描いた「八郎」の”イケメン”ぶりが気になったようです。「このたくましさは、俳優の鈴木 亮平さんを思わせますね」とのこと。なるほど、鈴木京香さん、そして鈴木亮平さん…今回は俳優・鈴木さんが話題にでますねぇ。

ちょっとだけ、「モチモチ山」』と「八郎」から、私の好きなセリフをご紹介します。

じぃじが豆太に言います。「にんげん、やさしささえあれば、やらなきゃならねえことは、きっと やるもんだ」(『モチモチ山』)。

八郎の 最期。薄れる意識の中で叫びます。「わかったあ! おらが、なしていままで、おっきくおっきくなりたかったか! おらは、こうしておっきくおっきくなって、こうして、みんなのためになりたかったなだ、んでねが、わらしこ!」(『八郎』)

この2つの言葉に、もう一つ私の好きな小説の名セリフを付け加えさせてください。ハードボイルドのクールな探偵、フィリップ・マーロウが言います。

「タフでなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格がない」(レイモンド・チャンドラー『プレイバック』)

どうです、このセリフ。
優しさと勇気。これも共通するでしょ。
鈴木亮平さんだったら似合いそうなセリフです、ただ…私が発するには、すべてにおいて力不足(※『役不足』ではありません)。

※力不足とは「役割に対して人物の力量が足りていないこと」、役不足は「人物の力量に比べて、仕事や役割が不相応に軽いこと」。この使い分け、私もよく間違えるので。念のため、です。