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【し~なチャン便り 第38話】9月23日 人形道祖神~その魔力と魅力

9月に入って間もなく、新型コロナウイルスの第5波の抑え込みに向け、秋田県など東北6県・新潟の7県知事らが共同メッセージを発表しました。

「『県境』またぐ移動の中止を」━なんだか、江戸時代の御布令(お触れ)「関所にて 怪しきもの 通り抜け許すまじ」のような…

コロナウイルスには限りませんが…過去の歴史を見ても、外からやってくる、つまり集落の境界をまたいでやってくる「未知なるもの」、「邪悪」なものに、人々は恐れを抱いていたことが分かります。

特に大切だとされた境界、さらに道の辻、三叉路などに、疫病や災いという「外敵」から人々を守る人形の神様「道祖神(どうそじん)」が置かれていました。

「県内ではカシマサマ、ショウキサマなど地域ごとに違う名前で呼ばれており、ワラ人形のほか、木像や石像という形でまつられています。アマビエが疫病退散のシンボルとして有名になりましたが、この道祖神はさらに力強い。多くは集落の境界に立っています。『県境をまたぐな』という意味がリアルに感じますね」

そう話してくれたのは、郷土史研究家の小松和彦さん=秋田市。

実は小松さん、JR秋田駅近くのギャラリー「小松クラフトスペース」の3代目。以前、「し~なチャン」の番組に登場した、世界中で「布探しの旅」を続ける小松正雄さん(【し~なチャン便り 第22話】6月3日 ライフワークは「布探し」)の息子さんです。※親子で出演いただいたのは番組初!!

さて、道祖伸の話です。和彦さんによれば、あの「アマビエ」より「歴史は古い」とのこと。

「県内には150カ所以上で道祖伸がありますが、数百年前から存在すると伝えられるものも。江戸時代後期の紀行家、博物学者である菅江真澄が秋田での滞在中、道祖神についてたくさんの記録を絵と文で書き残しています」

和彦さんは2017年、秋田魁新報電子版コラム「新あきたよもやま話」に能代市二ツ井町の「小掛のショウキサマ」を書いたことがきっかけで、「(人形道祖神に)どっぷりハマった」といいます。

さらに調査をすすめ、タッグを組んだイラストレーターの宮原葉月さん=神奈川県出身=とともに「ムラを守る不思議な神様(第1巻、2018年)」「同(第2巻、2019年)」を自費出版。さらに、この2巻をもとに再編集、新しい内容も書き加えて「永久保存版」として今回、大手出版社(KADOKAWA)から新刊を出しました。

小松さんの軽妙な文章と、宮原さんの個性あふれるイラストがマッチした新刊。まさに、2人がタッグしてつくった現代版「菅江真澄」本ですね。

宮原さんが独自の解釈で描いたカラフルな神々の姿。実に目を引きます。これをデザインしたТシャツのほか、バッグ、キーホルダーなども販売しています。

「私の取材に同行して地域に入り込んだ宮原さん。神々の魂が彼女の中に入り込んで、そこから彼女はインスピレーションを得たんでしょう。今回の新刊には特別に描いてもらった漫画も4編。いずれも面白いですよ」(小松さん)

確かに…読み進めていくと、宮原さんの絵がじわじわと浸透してきます。

「60年代後半」に一世風靡したサイケデリック・アートを思わせるような…レッド・ツェッペリンやピンク・フロイドのハードロックが頭を駆け巡ります(少々、トリップいや飛躍しました…)。とにかく、魅力的なイラストです。

道祖神の魅力に取りつかれた小松さんたち。今も心に残るのは、「道祖神を守り続けてきた地域の人々の懐かしい顔」だと小松さんは話します。

「各地域で道祖神を祭る行事を取材してきました。いずれも何百年前から変わらない姿で、今も地域住民に信仰されています。各集落では高齢化が進んでいるところもありますが、中には行事に若者が戻ってきたところもある。守り神を守り続けている人々がいる。これからもお話を聞き続けたい」

ミステリアスな道祖神をめぐる旅。何だかワクワクしますね。

小松さんと宮原さんの「ネオ・菅江真澄チーム」、2人の紀行記をこれからも楽しみにしています。