1964年10月の東京五輪で金メダルを獲得した女子バレーボール。「なせばなる」の名言で知られる大松博文監督が率いたチームは当時、日紡貝塚(にちぼうかいづか、のちにユニチカ)中心のチーム構成で「東洋の魔女」と呼ばれていました。
彼女たちが使ったのは「回転レシーブ」という秘密兵器。取りにくい位置に飛んできたボールを、飛びつきながら肩を中心に回転、すぐに体勢を整えて次の動作につなげる━というもの。大松監督が柔道の受け身をもとに「守備こそ最大の武器」と編み出したもの、といいます。
「回転レシーブ」。マネしたもんですよ、昭和の子供たちは。特に、女子はみんな『魔女』に憧れた…
さて、この1964年東京五輪の金メダル以降、女子バレーは、日本とソ連が優勝を争う「日ソ2強時代」がしばらく続きます。そうした最中、開催されたのが1984年ロス五輪でした。
「メダルを取るのは当然、そのうえで『金か銀か』と言われた時代。でも、このときは違っていました。予選で完勝した中国に、本番の準決勝でコテンパンにやられてしまった。ショックでした。でも、当時の山田重雄監督に励まされ、気を取り直してペルーとの3位決定戦へ。ものすごい緊張感でしたが銅を取ることができた。本当にうれしかったです」
(上の写真はロス五輪予選で、中国を破る日本チーム。利部陽子さん提供)
当時の想い出を語るのは利部陽子さん(60)=秋田市。角館南高卒業後、強豪チーム・日立に入社し、ピンチサーバーやセッターとして活躍。ロス五輪・女子バレーボールの銅メダリスト。現在は県バレーボール協会指導普及委員長をつとめるほか、クラブチームである「秋田ブレィザーズジュニア」代表として、子供たちにバレーの楽しさを伝えています。
━バレー一筋に歩んできた利部さん。バレーボールとの出合いは?
「太平中学校でバレーを始めたんですが、本当はソフトボールがやりたかったんです。ところが『お前は背が高いからバレーだな』と、先生や周囲の人たちから何度も言われて…でも今はこの偶然の出合いに感謝してます。偶然に導いてもらった、と」
━中学時代の写真を見せていただきましたが、スパイク打っているシーンばかり…。いつから「セッター」に?
「中学時代はアタッカーだったんですよ。ただ、高校に入ってすぐ、セッターだった3年生の方が病気で休むことになり、チームに『司令塔』がいなくなった。突然、監督に『代わりにセッターをやれ』と言われたんです。理由は『お前はパスが遠くまで飛ぶから』。もう、『えっ』という感じです。それからはもう夢中で練習しました。おかげでセッターとして認められ高校選抜にもなり、日立にも声を掛けてもらえた」
━いやぁ、これも「偶然」が導いてくれたものですね。
「本当にそうですね。でも日立では常にBチームのプレイヤーでした。Aチーム、スタメンセッターには現在、全日本監督をつとめる中田久美さんがいた。才能のある、素晴らしい選手です。彼女はロス五輪でも不動のセッターでした」
利部さんが五輪の登録メンバーに選ばれたとき、「自分の役割は何か」をあらためて考えた、といいます。セッターには中田さんがいる。「だったら自分は、チームが苦しいときにピンチサーバーとしてコートに出て、流れを変える役割に徹しようと思った」(利部さん)
ピンチサーバーというポジションは特別なものです。緊迫した大事な場面での起用が多く、一つのサーブがチームの命運を分ける…そんな重要な役割。プレッシャー、半端ないだろうなぁ。もし自分だったら、と思うと恐怖です。
「普段はあまりサーブを失敗する、ということはないんです。練習もたくさんやってきて自信もあった。でも五輪では違った。痛恨のミスでした。五輪には魔物がいる、っていわれますが、本当なんですね。それでも何とかみんなで乗り越え、表彰台に立つことができた。メダルが取れたことで、ほっとしましたね」
利部さんにはモットーがあります。それは「努力だけは天才を超えられる」ということ。
「努力することにかけては、どんな天才にも負けない。そう自分に言い聞かせてきました。私は天才ではないし、身体能力も高くはない。でもコツコツやっていけば必ず結果がでる。バレーボールを何十年もやってますけど、本当に楽しいし、面白い。まだまだ子供たちに伝えたいことがたくさんあります」
2度目の東京五輪がやってきます。
今回はコロナ下で「無観客」という種目、競技が出てくるかもしれません。五輪切符を手にした選手たちはどんな思いでいるんでしょうか?
「観客の声援から、たくさんの力をもらうのは確かです。だから無観客だとすれば残念でしょうね。でも選手たちはどんなカタチであれ、『試合がしたい』と思っているはずです。自分がどこまでできるか、確かめたいんです。五輪に人生のすべてを掛けてきた選手を何人も知ってます。夢をかなえてあげたい」
頑張れ女子バレー、そしてすべての五輪選手たちへ━
(テレビの前ということでくやしい思いはありますが…)精いっぱいの声援を送ります!!