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【し~なチャン便り 第23話】6月10日 ときめく「美人画」にドギめぐ

魅力的なネーミングに心魅かれ、展覧会に足を運びました。秋田県立近代美術館が特別展として開催中の「ときめく 美人画展」。日本有数の美人画コレクションで知られる「培広庵(ばいこうあん)コレクション」から、美人画の黄金期に活躍した作家たちの作品が一堂に会する、というものです。

同館の学芸主事・小林紀子さんとお話しする機会があり、興味が膨らんで、実際に確かめてきた、というわけです。「ときめき」ました。秋田弁で言えば「ドギめぐ」かな。

「美人画」という言葉は日本独自のものとか。江戸時代の浮世絵に端を発し、近代に華開いた美人画は、長く人々に親しまれてきた分野の一つです。小林さんは「美人画は時代を映す鏡のように、それぞれの時代に求められた理想の女性美、美人像を反映してきました」と教えてくれました。

ところで、この「培広庵」さんってコレクター、とても気になります。実に謎多き人です。いろいろ調べても、彼(彼女?)自身の情報はほとんど見つからない。小林さんによれば「培広庵」は、「屋号」ということですが、「その他の個人的な情報は一切明らかにされていない」そうです。尋常ならざる収集の情熱、そして底知れぬ財力を想像します。気になるなぁ、そしてうらやましい人生だなぁ…

いや 話を戻しましょう。
今回、同館に展示されているのは、「培広庵コレクション」から美人画の巨匠とされる上村松園や鏑木清方、伊東深水、大阪の画壇で活躍した北野恒富、島成園、北陸を拠点に活動した紺谷光俊(こんたに・こうしゅん)、さらに竹久夢二のほか、本県出身の日本画家・寺崎廣業らによる同館所蔵の美人画も加えて紹介されています。

私がずっと見たかった「投扇興(とうせんきょう)」という竹久夢二の作品。2017(平成29)年に発見された屏風(びょうぶ)「投扇興」は、「専門家もその存在を知らなかった」と新聞やニュースで話題になった「幻の作品」です。それが、培広庵さんのコレクションの中に…やはりこの方はただ者ではありません。

「投扇興」は新年の季語で、台の上に立てた的を離れた位置から扇子を投げて落とし、扇と的の落ち方で点数を競う雅な遊び。この作品に隣接する横長のケースには、実際の「投扇興」の現物、扇子がレイアウトされ、「夢二式美人画」がさらに興味深く感じられます。この「投扇興一式」を合わせて貸し出してくれたのも「培広庵」さんなんですって。心憎いほどのセンスです。

「上村松園さんら美人画を書く作家は、江戸時代などの古い着物柄、布をたくさん収集しているそうです。当時の髪型など風俗についても深い知識を持っています。そうした土台があってこそ、あれだけ緻密に描かれるのだと思います。史料的価値も極めて高いものです」(小林さん)

女性として初めて文化勲章を受章、生涯を通じて品格ある理想の女性像を追求した上村松園の「桜可里能図(さくらがりのず)」。昭和を代表する歌姫となった浅草芸者・市丸姐さんを描いた小早川清の「名妓市丸」、さらに小林さんのおすすめ作家・北野恒富の「願いの糸」…できれば、すべて紹介したいのですが、その中で、私が実際に見に行って圧倒された一作を紹介します。独断と偏見で…

山川秀峰の「安倍野」という作品です。

秋の野を行く女性。傍らに寄り添う2匹の白ギツネ。女性の着物の裾は背景の金箔が透けて見えています。実は女性は「狐の化身」で、愛する人「安倍保名(あべのやすな)」との間に一子をもうけたものの、周りに正体が知れてしまい、後ろ髪をひかれながらも姿を消す━という物語。この子供とは陰陽師・安倍晴明。安倍晴明伝説を題材にした歌舞伎や浄瑠璃の作品「蘆屋道満大内鑑~葛の葉(あしやどうまんおおうちかがみ~くずのは)」の一場面を描いた、とされています。

キツネという動物、昔話などでは良いイメージがなくてかわいそうな印象ですが、歌舞伎では「義と情にあついもの」として描かれることが多いようです。この女性の名は「葛の葉」。江戸時代の絵師・歌川国貞が「葛の葉姫 坂東玉三郎」という浮世絵を描いています。今の玉三郎さんが演じる歌舞伎の「葛の葉」も見てみたいなぁ。

大正末期から昭和初期に大流行した「美人画」ですが、昭和中期ごろからつい最近まで「美人画」を描く作家がほとんどいなくなった、といいます。浮世絵に代表される「日本髪を結った和装の美人」というイメージが「ステレオタイプ」ととらえられ、創造性にこだわる作家たちに次第に敬遠されていったのでしょうか。

しかし、小林さんによれば「美人画」が若い世代の中で再びブームになっているようです。「池永康晟(いけなが・やすなり)さんをトップランナーに、20代、30代の新しい感性を持った若手作家が続いている」とのことで、ほっと胸をなでおろしました。

新しい感性を持った「現代美人画」、楽しみです。「現代美男画」「イケメン画」を描く作家も登場したとか…どこまでついていけるか、ちょっと不安はありますが、興味はそれ以上に膨らんでます。