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【し~なチャン便り 第63話】芸術のピクニック~古いモノから新たな価値を紡ぐ

「AKIBI複合芸術ピクニック 」というタイトルで、秋田公立美術大が発行した冊子が気に入ってます。これは厳密には「研究紀要」というのかな…でも、まったくそんなイメージはありません。手軽に手を取って楽しめるおしゃれなデザイン誌、という感じです。

タイトルにある「ピクニック」という言葉が特に気になる、ユニークなワークショップが今年1月、秋田市を舞台に行われました。

これは同大大学院複合芸術科が、秋田市と京都府京丹後市という文化や歴史、社会環境の異なる二つの拠点で、夏期と冬期に分けて展開する「受講生公募型プログラム」です。

「ピクニック」という言葉が実に「美大」らしいところ。この冊子には「参加したアーティストそれぞれが構想するユニークな”創造的ピクニック”の機会をサポートしたい」として「1900キロ離れた二つの地域、沖縄と秋田について考察するという、実験的な方法を用いた」とあります。

冬期「ピクニック」には、地元秋田をはじめ京都・東京・山形など7都府県から9人が参加。彼らは秋田市内での生活を通じて「課題」に取り組みました。その課題とは、秋田市の収集家・油谷滿夫さん(89)=が集めた民具などの「モノ」を素材に、「現代美術的な視点とデザイン的思考をプラスして新たな作品を創り出すこと」です。

(前回のコラムでも紹介しましたが)油谷さんは自らのコレクションを「生活文化財」と呼びます。古いものが新しいものに取って代わられていく中で、私たち庶民の生活を映し出すもの、それが「生活文化財」であるというのが、油谷さんの思いです。

今回のワークショップでも、油谷さんは「手に取って見てください、そして感じてください」と参加者一人一人に声を掛けていました。

参加者たちは「モノ」の歴史や時代背景などをリサーチし、その結果を現代美術的な視点で解釈。そして「マタギの装具」「西馬音内盆踊りの『いぐさの笠』」「馬用のカンジキ」など、昔の道具から得た情報を基に、新たな「モノ」を創り上げていきました。

山形大・庄司彩未さんの発表「旅によって変容するマタギの装具と価値観」は、マタギ(秋田県阿仁地方の狩猟集団)の帽子「マタギボッチ」に目を止めました。しかし、油谷さんのモノは狩猟用にしては重く、「棕櫚(しゅろ)」で装飾された豪華な装具でした。美しい「マタギボッチ」を身に着けたマタギの存在。それは全国各地でクマの胆のう薬を売り、商いをする「旅マタギ」だった━という新しい物語を創り出しました。

また、沖縄県在住の金工作家・菊地綾子さんら3人のグループは、「ヘギ鉢」と呼ばれるブナでできた鉢を擬人化。その鉢が発する「言葉」を、プロジェクターを使って鉢の内側に投影しました。さらに展示空間に編ひもを張り巡らし、その中心に「鉢」を据えます。菊池さんたちは「これまで紡がれてきたこと、そして未来。これらがみんなつながっている。それぞれのつながりを編みひもで表現した」と説明してくれました。

古い道具から新しいストーリー、新しい価値ある物語を紡ぐ。アーティストたちは、自身が選んだ道具からインスピレーションを得て、全く新しい物語、自分だけのオリジナルな物語を創り出しました。

参加したアーティストたちは、口々に「庶民の文化が多種多様な発想で繋がっていることを表現した」といいます。かつて「古くて必要のないもの」と思い込んでいたものが、新しい価値観を付け加えることで全く違うものに生まれ変わる━その瞬間をそれぞれが感じ取ったようです。

油谷さんは「庶民の暮らしを映し出すモノ」にこだわり、生涯かけて50万点以上のコレクションをつくり上げました。
私が油谷さんの膨大なコレクションの数々を初めて目にしたとき、驚きとこれまでにない感動を覚えたように、若い世代もまた、同じように刺激を受けて何か感じてくれた…油谷さんの「残したい」と思いが、確実に未来へとつながったようにも感じました。