油谷さんを取り上げた「物の聲を聴け~65年、ただひたすら集めて」(2023年5月、CNA制作)がYouTubeで公開されて2週間余り。ご覧になった皆さんから、さまざまな応援の声が寄せられています。
前回に引き続き、稀代の収集家・油谷満夫さん(89歳)=秋田市=のお話しを続けます。
◇ ◇ ◇
70年ぶりに改正された「博物館法」が今年4月、施行されました。
改正された”新時代”の博物館法では、デジタルアーカイブの作成と公開についての明確な位置付けとともに、地方の学校、個人や団体との連携、地域の文化観光・文化振興と地域の活力向上が強調されています。まさに大改正です。
「博物館法」の大改正に合わせて、今月17日と18日に秋田市・国際教養大学で「アート・ドキュメンテーション学会」が開催されました。
この学会は、日本国内の博物館や美術館などで働く専門家、大学研究者、アーティストなどが集まり、芸術や文化に関する資料の記録・管理・情報化方法論の研究や実践的な運用について取り組んできました。秋田では初の開催です。
「今回は、地方・地域というキーワードのもと、これまで博物館が従来あまり対象としてこなかった『地域に集積した人々の営みとしての文化資源』を、拡大する『アート』の一つとして捉えました。博物館・美術館が主体的に行う地域連携、地域活性化、さらには国際発信まで見据えた議論が、秋田でできてよかった」と学会長の立命館大・赤間亮教授。
議論のテーマとして「油谷満夫さんの(50万点の)コレクション」が取り上げられました。そして油谷さんが60余年かけて集めてきた「庶民の暮らし」を伝えるさまざまな「モノ」は、守るべき「地域文化資源」と位置付けられたんです。
たった一人の「特別な情熱」によって収集されたさまざまな「モノ」、そして、地域のアイデンティティを反映する「地域文化資源」。それをどのように守っていくべきかについて、今回の学会では熱い議論が交わされました。
油谷さんの収集は、特定のジャンルに限定されていません。あらゆるジャンルや私たちの生活に関連するものを幅広く収集してきました。特定のジャンルだけに注目すると、油谷さんよりも優れたコレクターが国内外に存在するかもしれません。しかし、油谷さんの特徴はほぼすべてのジャンルの収集品を持っていることです。たった一人で…
今回の学会では、会場に「油谷さんのコレクション」の一部が展示されました。
「異なる資料や、モノとモノを照らし合わせることで、これまで関連性が見えなかったモノたちの間に、深いつながりを見つけ出すことができる」「異なる時代や文化の資料を比較することで、新たな発見がある。それはたくさんモノがあるからできるんだよ」━いずれも油谷さんの言葉です。
油谷さんはまもなく90歳。後継者はいません。自身の収集品のうち20万点を秋田市に寄贈しましたが、まだ30万点以上の貴重な「モノ」が残っています。その行く末はまだ決まっていないのです。いったい、どうなるのか。
そして、残すべき「文化」とは何か?
学会で皆さんの議論の核はそのことでした。
繰り返しになりますが…
彼のコレクションは庶民の暮らし、それも秋田に暮らす私たちに密接にかかわるモノの数々です。この「地域文化資源」を保存し続けることは、地域のアイデンティティや歴史を守ることに繋がる━私はあらためて、そう思います。
学会の様子を「し~なチャン」でお伝えしました。